1級着付け技能士の実技試験では、持参できる道具の数が厳格に定められています。
今回は、お着付けの要であり、合否を分けると言っても過言ではない「腰紐(こしひも)」の戦略的な使い方についてのお話です。
試験要項の『注意事項』には、以下のように記載されています。
腰紐 数:6本以内(6本の内1本は三重仮紐可) 種類:布製
『よくある質問』には以下の記載もあります。
Q.ポリエステルの腰紐は使ってもよいですか?
A.布製であれば素材は自由です。Q.点検時の紐のたたみ方に決まりはありますか?
A.紐のたたみ方は自由です。(平ら、巻取りの中心を出してたたむ等)Q.コーリンベルトは使っても良いですか?
A.コーリンベルトは使えません。(「受検者持参品」以外のものは使用不可)
普段コーリンベルトを使うお着付けに慣れている方は、腰紐のみで胸元を決める技術を身に付ける必要がありますし、「6本(以内)」で振袖とふくら雀を完成させるための「紐の配分(マネジメント)」が非常に重要になってきます。
私が本番で採用した「腰紐6本」の使い道
私が受検時に使用した腰紐は上限いっぱいの6本で、その内訳は「純粋な腰紐4本 + 仮紐1本 + 三重仮紐1本」でした。
どこでどう使ったか、具体的な内訳は以下の通りです。
- 【腰紐1】長襦袢お着付に使用。バストやや下ではなく、胸高で使用しました。
- 【腰紐2】振袖の腰紐として使用(※あえて少し短めのものを採用。長襦袢着付けの衣紋抜きを調整する仮紐としても兼用)
- 【腰紐3】振袖の胸紐として使用
- 【腰紐4】振袖のおはしょり整えとして使用
- 【三重仮紐1】ふくら雀の土台作りに使用(※使い方の詳細は後述します)
- 【仮紐1(※腰紐扱い)】ふくら雀の箱ひだ作りに使用
※補整のタオルを押さえる工程では、貴重な腰紐の枠を使わず、「ガーゼ」を採用して節約しました。
点検時の「たたみ方」は五角形のままでクリア
下記は、受検時に実際に持参した腰紐たちです(※三重仮紐を除く)。

写真のように、1本を半分に折り、五角形になるようにたたみました。本番ですぐに中心を取り出せるよう、最後は完全に折り込まずに少し出しています。
点検時もこの形態のまま提出し、本番のお着付けでもそのまま使用して『〇』でした。
周りには「中心を出してクルクルと巻き取った状態」に変更されている方も多くいらっしゃいましたが、私は普段の練習から五角形での扱いに慣れきっていたため、あえて本番も変更することはしませんでした。
検定委員の先生への心証も悪くないだろうと考えましたし、持ち運びにも便利です。
それに「せっかく綺麗にアイロンをかけてきたのに、シワを作りたくない・・・・」という切実な思いもありました(笑)。
ですが何より一番の理由は、いつもの手慣れた状態にしておくことで、「自分が本番で焦らずに済むから」です。
注意事項にある通り、たたみ方は自由ですので、ご自身が一番扱いやすい「いつものたたみ方」で臨むのがベストだと思います。
【合否の分かれ道】ふくら雀の「箱ひだ」は仮紐で作る!
布製であれば種類は自由なので、私は一般的な無地のピンク色の腰紐のほかに、ドット柄の「仮紐」を1本採用しました。
通常の腰紐より明らかに短く、名称通り『仮紐』の長さのものです。私はこれを、ふくら雀の『箱ひだ』を作るために採用しました。
ふくら雀の帯結びにおいて、私は「三重仮紐」と「ドット柄の仮紐」を以下のように使い分けました。
- 三重仮紐の手前2本を使い、三ツ山ひだを交互にバッテン掛けする。
- 三重仮紐の一番奥(身体側)の1本を使い、バッテン掛けした箇所を固定する。
- ドット柄の仮紐を使い、箱ひだをしっかりと形成して留める。
当初は、箱ひだの形成にも「三重仮紐の一番奥のゴム」を使おうとしていました。
しかし、対策講座の先生からのご提案もあり、あえて「独立した1本の仮紐」を採用して箱ひだを作ったところ、断然きれいに形が決まったのです。
あえて「太め」の仮紐を選んだ、結果オーライな深い理由
さらに、私が採用したこのドット柄の仮紐は、特段変わったものではない汎用品ですが、どちらかといえば「太め」でした。
対策講座の先生からは「太い紐は、余計な厚みとして表に出てくる恐れがあるから、細めの仮紐が良いですよ」とアドバイスをいただき、練習中も細いものを模索しました。
しかし、最終的に私が本番で採用したのは、使い慣れた「太め」の仮紐でした。
なぜ、あえて太めを採用したのか?
一番の理由は、太めの仮紐が持つ「適度な厚み」が、結果的に美しい仕上がりのための最高の土台になってくれたからです。
太めの紐は、帯の締まりを助けるちょっとした補整効果を生んでくれます。
さらに、その後に掛ける帯揚げ(いりく)の土台としても一役買ってくれ、帯揚げの美しい形を作るのにとても好都合だったのです。
そしてもう一つ、副産物的な理由として「本番の異常な緊張下での、モデルさんへの配慮」もありました。
受検本番は、普段のお仕事とは全く違う異常な精神状態です。無意識のうちに、いつもより強い力で紐を結んでしまう恐れがありました。
細い紐で結構な力で結んでしまえば、モデルさんに食い込んで辛い思いをさせてしまうかもしれません。太めであれば、そのリスクも減らせて『〇』でした。
もちろん、対策講座の先生のアドバイス通り「表に余計な厚みが出ないよう、細めの仮紐」を選ぶのも間違いなく『〇』です。そりゃそうだろうとさえ思っています。
どちらを採用するかは、ご自身の求める仕上がりの土台作りと、使い勝手とのバランスで決めて良いのだと思います。
おはしょりの処理、腰紐は使う?使わない?
限られた腰紐の使い道として、最後まで迷ったのが「おはしょりの整え」です。
対策講座の先生からは「おはしょりが綺麗に整うなら、腰紐は使わずに伊達巻でそのまま押さえてしまっても大丈夫ですよ」とアドバイスをいただきました。
確かに、工程を一つ省けるなら省いた方が時短になります。しかし、私は安全策を取り、「確実におはしょりを美しく決めるために、ここは腰紐を1本使う」という工程を組みました。
このように、「6本以内」と定められた腰紐の用途は本当に多岐にわたります。
全6本をフル活用する方もいれば、5本で最適なお着付けができる方もいます。どの工程に紐を回し、どこを省く(あるいはガーゼ等で代用する)か。その配分こそが、受験生の戦略になります。
腰紐は、通常のお仕事でもそうですが、受検という極限状態においては更に頼りになる『相棒』です。
相棒の力を最大限に引き出して本番に臨めるよう、そのために一考することも大切な事かと振り返りでございます。
ご参考になれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。
【おまけ】私が本番で実際に使ったガーゼはこちら
受検生の方から「どんなガーゼを何メートル用意すればいいですか?」とよくご質問をいただきます。
私が練習から本番まで愛用し、一番使いやすかった9mの反物ガーゼ(綿100%・日本製)はこちらです。自分で探すのが不安な方や、どれを買えばいいか迷っている方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。

