1級着付け技能士検定の「注意事項」を隅々まで読み込むと、モデルさんが手伝っていい範囲が意外とあることに気づきます。
「え、手伝ってもらっていいの?良いかも!」
そう思うのが普通かもしれません。
しかし、私はあえて「基本は何も手助けしなくていい(かわいいお地蔵様になっていてほしい)」という戦略をとりました。
今回は、その理由と、実際に私がモデルさんにお願いした「見えない協力」についてお話しします。
まずはルール確認:モデルが手伝っていいこと
技能検定の注意事項には、明確にこう書かれています。
【注意事項からの抜粋】
モデルは、試験中作業の手助けをしてはならない。ただし、下前の衿を押えること、帯枕の紐、帯揚げ、帯締め及び帯のて先を持つことは可。
ここに掲載されている内容は、ルール上「可(OK)」なのです。
実際、対策講座の先生からも「書いてあるんだから、持ってもらえばいいじゃない。楽になるわよ」とアドバイスを頂きました。
しかし、私はこれを「採用しません」でした。
なぜ私は「お手伝い不要」を選んだのか
理由はシンプルで、「失格リスクを限りなくゼロにしたかったから」です。
私のモデルさんは、着物の知識がゼロの方でした。
もし私が「これ持っていて」と頼んだとして、モデルさんが良かれと思って、少し引っ張ったり、位置を直したりしてしまったら?
その動きが検定委員の目に「規定範囲外の手助け(=即失格)」と映ってしまったら…。
相モデル(経験者)と素人モデルの違い
- 相モデル(相手も着付け師)の場合:
例えば同じ立場の受検者の方で異なる受検日程で相モデルされる方もあります。同様のお立場同士であれば「ここまでなら大丈夫」という阿吽の呼吸で、スムーズな連携ができるかもしれません。 - 素人モデルの場合(私):
「持ち方が違う」「もっとしっかり持って!」と、試験中の極限状態の私がイライラしたり、淡い期待をしてしまったりする可能性がありました。
だから私は、モデルさんにこう伝えました。
「基本は何もお手伝いしなくていいからね。モデルさんがお手伝いすると失格になっちゃうから、しっかり立っていてもらえればいいから。ただ立っているだけも疲れるけど、立っててください」
これが、私のとった「安全策」です。
それでもお願いした「4つの見えない協力」
「手で物を持つ」という物理的なお手伝いは頼みませんでしたが、「体を使った協力」は徹底的にお願いしました。
これは違反ではなく、美しい着付けのための「土台作り」です。
1. 腕の上げ下げ(帯回し時)
帯が脇を通る瞬間だけ、スッと腕を上げてもらう。
これはスムーズな帯回しのために必須の連携です。
2. 足のスタンス(踏ん張りすぎない)
長時間の立ち姿勢、モデルさんも疲れます。踏ん張るために足を大きく広げたくなるものですが、着姿や裾つぼまりに影響するので「可能な限り、開きすぎないで」とお願いしました。
3. 退場後の「歩行審査」への備え
試験には、受検者が一旦退場し、モデルと検定委員の先生だけの空間で行われる「歩行審査」の時間があります。
私はここに「動いた時の着姿(採点)」が含まれているのでは?と分析しました。
そのため、モデルさんとの練習時に可能な限り正面を向いていてほしいなど、以下の所作をお願いし続けました。
- 腕を大きく振らない:長襦袢が見え隠れする恐れなど袖の形が崩れないように。
- 勢いよく歩かない:お草履音の心配と裾さばきが乱れないように。
- 下を向かず正面を見る:衿元が詰まったり、衣紋が浮かないように。
大げさかもしれませんが、私がいない場所での審査だからこそ、モデルさんの所作そのものが合格のカギを握ると考えたのです。
4. メンタルの共有(「検定委員の動き」を予習する)
検定委員の先生方は、穴が開くほど手元や着姿をジーッと見てきます。
モデルさんには、こう伝え続けました。
「すっごくジーっと見られるけど、あなただけではなくて、みんなそうやって見られているから安心してね。慣れない空間かもしれないけど、耐えてね」
実は、不合格だった年にモデルをしてくれた娘が、終了後にこんなことを言っていました。
「背面の帯結び(タレ)の長さを測られる時、声が聞こえなかっただけかもしれないけど、急に腰の近くに定規を当てられて驚いたよ」
もしかしたら、時として検定委員の方は無言で、あるいは聞こえないくらいの声の大きさで採寸されることもあるのかもしれません。
そこで不意に定規が当たってモデルさんが驚き、体が「ビクッ」と動いてしまっては、着姿に影響が出る恐れも少なからずあるのでは…?
いや、そこまで直ぐ崩れるようなヤワな着付けはしていないつもりですが、「もしその一瞬で…」と、怖がりな私は考えてしまいました。
対策講座の先生からは「そこまで気にしなくていいわよ」とお声がけいただきました。
しかし、受験前は公式情報も少なく、全てが暗中模索です。注意事項を確認すればするほど気になってしまうのが受検生の心理。
だからこそ、「ジロジロ見られること」に加え、
「急に定規を当てられることもあるからね」
「すごく近くで採寸されるけど、そんなものだから動じないでね」
と、具体的な「され方」まで共有しておくことが、私なりの立派な合格対策になったのです。
唯一の「物理的」な接触?私がモデルの「支え」になる
あえて「協力」と言えるシーンがあるなら、帯を回す時や、後ろで帯をギュッと結ぶ瞬間です。
どうしても力が加わるため、モデルさんがよろけてグラついてしまいそうになります。
なんとなくですが、モデルさんがぐらついてしまうのは、検定委員の先生への心象が悪そうなイメージがありました。
そこで私は、モデルさんの脇にピタリと寄り添い、私自身の体でモデルさんを支えながら作業を行いました。
モデルさんに「踏ん張って耐えて!」と強要するのではなく、私が「支え」になることで、モデルさんが動かずに済む状況を作るのです。
結果として、モデルさんの負担も減り、着崩れも防げる。
これこそが、言葉を交わさずとも通じ合う「二人三脚」の信頼関係だったと思います。
まとめ:自分たちの「正解」を見つけよう
「ルールで許可されているからやる」のが正解とは限りません。
- モデルさんが経験者なら、フル活用して時短を狙う。
- モデルさんが未経験者なら、リスクを避けて自分で完結する。
この「自分のペアに合った最適解を選ぶ判断力」も、1級着付け技能士に求められている技術(対応力)の一つなのかもしれません。
私は「あえて頼まない」ことで、心の平穏と合格を勝ち取りました。あなたはどちらの戦略を選びますか?
今回の記事が、暗中模索の中で頑張る方のご参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。

