今回は、少し勇気のいる告白を、えいやっと綴ってみようと思います。
すでに「胸タック」の技法を上手に身に付けられている方は、どうぞこの記事はガンスルーしてくださいませ。
これもまた、私が不合格の迷走期に陥っていた頃の「大いなる呪縛」のお話です。
「1級受検=胸タック必須」という勝手な呪縛
受検に向き合った当初、私は「胸タックは必然的に行うべきもの」と捉え、胸タックありきで練習に臨んでいました。
理由は、普段の業務中で胸タックを施すことがあったり、コンクールで受賞歴のある先生方の発信で、胸タックを美しく施された着姿を多く目にしていたからです。もしかしたら、私自身が胸タックに意識が行き過ぎていて、そういった高度な情報ばかりをキャッチするようになっていたのかもしれません。
「お着付け上手は、胸タック上手」
「1級着付け技能士という着付けのプロになるのだから、胸タックが綺麗にできて当然」
いつしかそんな呪縛を、自分勝手にまとっていました。
過去に自装・他装を学んだ教室では、実は胸タックについて深く触れる機会はありませんでした。そのため、検定に向けて通った対策講座の一つで、初めて胸タックありきのご指導を受けたのです。
講師の先生のお立ち会いの下、突き抜けて未熟だった私でも胸タックを綺麗に施すことができると、お着付けがこんなにも煌めくのか!と、初心者にかえったような大きな衝撃を受けました。
「よし、検定は絶対に胸タックありきでいこう!」と意気込み、自主練習を重ねました。
ボディではできても、モデルさんで発生した「関門」
しかし、ここで大きな壁にぶつかります。
ボディ(マネキン)での練習では上手くできていた胸タックが、実際のモデルさんのお着付けになると、どうしても上手くいかないのです。
具体的に何が起きたかというと、モデルさんの手元付近の袖具合、つまり「着物と長襦袢の見え隠れ(添い具合)」に大いなる不安要因が発生してしまいました。
以前の記事でも触れましたが、実技試験において、着物と長襦袢の袖の収まり具合に乖離がある(襦袢が飛び出してしまうなど)のは、当然ながら宜しくありません。危険度高です。
胸タックの技法を完璧に身に付けられている方からすれば、「なんて嘆かわしい、単に技量がない(下手な)だけでしょう」と甚だ理解しがたい現象かもしれません。はい、ごもっともです。私の力量不足に他なりません。
対策講座の先生の一言と、私の決断
検定に向けて通ったもう一つの対策講座は、胸タックありきの指導ではありませんでした。
ある日、モデルさんと一緒に講習を受けた際、思い切って講師の先生にお伺いを立ててみました。
「先生、やっぱり検定では胸タック、とったほうがいいですかね?」
すると、講師の先生は私のモデルさんの着姿をじっくりと見て、こうおっしゃいました。
「とらなくてもいいんじゃない? モデルさんのお胸周りもしっかり目だし、収まり具合もとても良いから」
このやり取りを経て、私の心のぶれは消え「では、とりません!」という流れに至りました。
改めて毎年の注意事項の冊子を熟読しても、当然ですが「胸タック」に関する必須の記述はありません。掲載されている完成図も、どちらとも取れるような図です。
「ならば、やはり胸タックは積極的にとらない姿勢に切り替えよう。胸タックなしで、受検のお着付け完成形を全力で整えよう!」と、さらに必死さが増しました。
得るは捨つるにあり。合格を最優先にした結果
ただ、正直なところ不安がゼロだったわけではありません。
「現在では定番の着付けメソッドとなっている胸タックを施さないことは、昨今のお着付け事情としてどうなんだろう? 検定も年々アップグレードしているはずだから、心証が悪いのではないか?」
そんな思いが、頭に浮かんでは消えを繰り返しました。
だけど、不合格の年を経て、「絶対に、確実に合格したい」という強い思いがありました。
不確かな技術で見栄え(胸タック)を優先し、長襦袢の袖の収まりという基本で失点するリスクを負うくらいなら、今の自分が確実に美しく仕上げられる方法を選ぶべきだ。
そう腹を括り、私は「胸タックをとらない選択」をして、無事に合格に至りました。
受検終了直後、審査を終えて撮影許可いただいた際のモデルさん胸周り写真がこちらです。

胸タックを施す意識は全くしていませんが、モデルさんの体型に助けられたこともあり、すっきりと収まっています。もちろん、細部を見返せば粗もあり、猛省もつきまといますが……。
まとめ
この記事をお読みになった方の中には、「なんて次元の低いことを書き連ねているんだ」とがっかりされた方もいらっしゃるかもしれません。
それでも、あえて綴ったのは、合格した今だからこそ言える「得るは捨つるにあり」という言葉をお伝えしたかったからです。
高度な技術を取り入れることは素晴らしいですが、それが原因で全体のバランス(袖の収まりなど)を崩してしまうのであれば、本末転倒です。モデルさんの体型によっては、無理にタックをとらない方が美しく収まることもあります。
もし今、私と同じように「1級だから〇〇しなければならない」という技術の呪縛に苦しんでいる方がいたら、一度立ち止まって、ご自身とモデルさんにとっての「確実な最適解」を見つめ直してみてくださいね。
この等身大の経験が、少しでもご参考になれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

