私が1級着付け技能士の受検を目指したばかりの頃、お恥ずかしながら「モデルさんが倒れる」という事態は全く頭にありませんでした。
技術を磨くことばかりに気持ちが向いており、モデルさんのケアは疎かになっていたかもしれないと、今更ながらに振り返ります。
これから受検される皆様へ、私の経験と「モデルを務めてくれた娘のリアルな声」が、技術の練習と併せて大切なことに気づく一つの参考になれば幸いです。
感染症対策だけではない「見えない負担」
実技試験における受検上の注意事項より抜粋します。
【感染予防対策について】
1,試験当日、次の症状がある方は、受検をお控えいただきますようお願いいたします。
・試験当日の朝の検温時、37.5度以上の発熱がある方
・感染症について検査等により陽性の判定を受けて、試験日当日はまだ療養が終了していない方
・咳、のどの痛みなどの風邪の症状、臭覚や味覚の異常がある方
近年の状況的に、ごく一般的な事柄が記載されているように見受けられます。
これを読み、念のためにできる対策として、当時12月受検予定だった私とモデルの娘は10月頃にインフルエンザの予防接種をいたしました。
他でのモデルさんのケアについて。「大人なのだから、そう簡単に体調は崩さないだろう」「きっと体調管理の意識は持ってくれているだろう」
親子であっても、それ以外の間柄のモデルさんであっても、健康面のセルフケアを強めにお願いすることは中々ないと思われます。
受検時、モデルさんが倒れる事など、まず頭に浮かびませんでした。
しかし、実例を知ると、注意事項の文言がさらに重く胸に突き刺さります。
実例とは、私が受検に向けて練習を重ねていた時期に、ふと耳にした事柄です。
『本当に怖かったそうよ。実際の試験会場で、モデルさんがお倒れになった事があったんですって。ふらつくようなものではなくて、立ったまま後ろにばぁんって。会場に音が響くくらい。勿論お倒れになったモデルさんと受検者の受検はそこで中断。失格よね。だから、モデルさんは大事にしなければいけないのよ。』
あるんだ、そんなこと。いや、事実起こっているんだ。
「ただ立つだけ」は大間違い。娘のリアルな感想
モデルを務めてくれた娘とは、例えば本人が好きな海鮮丼を親子で一緒にランチに食べに行ったり、受検後のご褒美ランチはここに行こうと話したり、それなりに気を使っていたつもりでした。
しかし、不合格を経て見事合格に至り、暫く時が経ってから「実際、モデルを務めるってどんな感覚だった?」と尋ねたところ、娘から下記のような回答が寄せられました。
【着付け試験の感想】
ただ立つだけだと思ったら、大間違いだった。お母さんは「立つだけだから、考え事してていいよ」って言っていたけど、周りが集中しているから、余計なこと考える暇がないしできなかった。正面を向け続けなければいけないこと、バランスが取りづらかったこと、それでも転んだら失格になるので真っ直ぐ立っていないといけないことが大変だった。何より、緊張していたのと、着物がきつかったから、息するのも少し苦しく感じた。落ち着くことが大切だと思う。
会場にモデルだけが残されたあとは、審査員が審査のために軽く触るけど、審査員は全員女性で長時間ではないから大丈夫。その後はモデル全員で会場を1周歩く。歩き方にこだわらず、普通に歩いて大丈夫。
モデルが体調を崩して、立てない、歩けない状態になったら、用意された椅子に座らせてもらえるけど、試験失格になる。着物を何回か着て、締め付けに慣れることと、体調管理が大切。
受検者である私が練習時に伝えた「モデル歩行の時の歩き方」などの細かなお願いは、良い具合にガンスルーして行ってくれたのだなと笑みがこぼれつつも、「きつかった」というくだりには、「あぁ、結構我慢してくれていたんだな」と今更ながらに気づくのです。
「失格になる」という言葉に隠された、娘の思いやり
娘のこの感想を読んで、「座ったら試験失格になる」と、そこまでのプレッシャーを抱えながら立っていてくれたのかと、胸が熱くなりました。
実際のところ、公式な採点基準は開示されていないため、着付け完成後の体調不良による着席が「一発失格」になるのか、「減点対象」にとどまるのかは私にも分かりません。受検において大変重要な事柄ではありますが、不確かな情報をお伝えすることは避けさせていただきます。
ここで私が何より重きを置いてお伝えしたいのは、娘が自分の貴重な時間を割き、「絶対に親の迷惑にならないように」「自分の務めを最後まで果たそう」と、非日常の張り詰めた空気の中で一生懸命耐え抜いてくれていたという事実です。
受検者がリードする「本当のケア」が合格を引き寄せる
私はたまたま運良く、2回の受検でモデルさんが倒れるという経験をせずに済みました。
モデルさんが倒れた経験のない私が言うのはおこがましいかもしれないのですが、それでも、一つの参考として添えさせていただきます。
受検時において、一番情報をキャッチし、状況を熟知しているのは間違いなく「受検者自身」です。
受検者がしっかりと場をリードし、配慮をするからこそ、モデルさんも安心感を持ち、一緒に立ち続けることができるのだと思います。
受検に向き合えば向き合うほど、技術だけでなく「モデルさんのケア」への気づきも増えていくはずです。その思いやりは、きっと良い結果へと伝播していくと信じています。
ここまで綴りまして、また近々、あの子の大好きな海鮮丼ランチに連れて行ってあげようと誓っております。
ご参考になれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございます。

